日本海へほど近く、四方を山に囲まれた盆地の田舎町『鬼伏町(おにぶしちょう)』。
そこからさらに奥へ進むと、もっと田舎の集落『弘法(こうぼう)』がある。
今日二〇二三年四月六日は、弘法唯一の学校『啓浄学園高等部』の入学式の日。
なにを思ってこの過疎地に開校したのか、誰も知らないまま一〇周年を迎えた学園に一人の新入生がやってきた。
名前を『綾苅 縁(あやかり えん)』。
「弘法へ帰りなさい」
母の遺言に従い都会から引っ越してきた彼には、幼い頃ここに住んでいた記憶があった。
いまさら戻ってくる意味も意義もなかったが、新たな出会いと懐かしい出会いが彼を騒々しい『学園七不思議』精選の沼へと引きずり込む。
『啓浄学園高等部』には、まだ学校の七不思議が存在していなかった。
鬼の伏す地で結ばれる奇妙な縁。
これは、人と魑魅(すだま)の織りなす物語……。